小説の「手紙」は、東野圭吾作品の中ではあまり好きじゃないんです実は。
心底、意地の悪い話だし、原作だと由実子がすごいウザい、というか怖いしで。
でも2017年版のミュージカル手紙を観て、ミュ版はもう大好きと思ったの。同じ話なのにフシギよね(笑)
あらすじ
武島剛志と直貴は早くに両親を亡くした兄弟。剛志は自分と違って出来のいい直貴を、どうしても大学に行かせてやりたかったが、進学費用が捻出できなかった。出来心で盗みに入った先で住人に騒がれ、はずみで殺してしまう。
剛志が刑務所に15年服役することになり、犯罪者の身内として世間から冷たい目を向けられるようになった直貴。
同僚の由実子は、そんな直貴にまるでつきまとうようにしつこく励まし続ける。彼女もまた、同じような思いをしてきたのだった。
服役中の兄から月に一度届く手紙には、獄中での穏やかな生活がつづられる一方、強盗殺人犯の弟として扱われる直貴は、人生の節目を迎えるたびに苦しんでいた。
自分は何もしていないのに、なぜ?
月日がたち、家族をもった直貴は、ある出来事をきっかけに、ついに決断する。
ミュージカル版は、原作と比べてマイルドな印象があります。語弊を恐れず言えば品がある。
周囲から向けられる偏見も歌で表現されるから、それがクッションになってるのかもしれないね。
曲がとてもドラマティックで印象的。曲数はそんなに多くないんですけどね。すごく耳に残ります。
わー-っと歌い上げる曲より、静かにしみこんでくる曲が多い印象なのよね。
私の初「ミュ手紙」、2017年版の由実子は小此木まりさんでした。素晴らしかった。
2022年版の三浦透子さんもキレイな歌声でしたが、マイクが全部息継ぎを拾うのでなんだか苦しそうに聞こえちゃったな。
三浦透子さんは映画「ドライブ・マイ・カー」でも話題ですよね。早く観たい~時間を作らねば~!
弟の直貴は村井良大さん、兄の剛志はspiさん。
おふたりともめっちゃ良かったわ~
村井さんは、守られていた立場から理不尽に糾弾・拒絶される側になり、守るものができて兄を自分の人生から切り離す決断をするまでの変化を繊細に演じられてました。
すごく大人にも子どもにも見えるのよね、りょーた。フシギなひと。そしてやっぱり、ビジネススーツがすごい似合うw
悔しそうな表情がすごく巧いんで、手紙に出ると知って期待しました(?)。思った通りすごくよかった。
spiさんは なぜか私、藤田俊太郎さん演出の作品でばかり観てるんですけど、憤懣とか悔恨を内にたたえて静かに生きてる人を演じるがすごく巧い印象です。
この「手紙」の剛志もそういう感じで、ピッタリだなーと思いながら見てました。
剛志は気は優しいけど知恵がないというか、短慮なお兄ちゃんなのね。
その剛志が、直貴の真剣な気持ちを受け止める。
刑務所での遠目の対面シーンでは直貴もまた、守るべき家族のために剛志と縁を切るけれど、自分の中に貴方は居ると伝えたように見えた。
この絶縁は断絶ではない、とお互いに理解しあえたと感じて、そりゃもう泣いてきました(涙
話の中で、犯罪者本人だけでなく、その家族も差別され辛い思いをすることも、犯罪者が受けるべき罰のうちだという一説が出てくるんですけどね。私ここが一番ひっかかるんですよ。
差別され辛い思いをするのが「犯罪者の親」や年長者なら、一理あるとは思う。
大人なら、そばで見ていて、何か起こしそうだと気付かなかったのか?自力で止められなくても、どこかに相談するとか、何か対処はできなかった?
でもさ、この場合「弟」なんですよ。兄が強盗殺人を起こしてしまった時、弟の直貴は高校生なわけで。いくらしっかりしてるったって、思い詰めてるようだとか、様子が変だとか、気づかなくても責められないでしょう。
事件当時高校生だった子が、「キミの苦しみも兄さんが受ける罰のうち」やら言われてもねぇ。
それに服役中の兄は、弟がそんなことになってるのを目の当たりにはしていない。だから家族が偏見にあって辛い思いをしてる、って知らせるには、手紙に書くとか、面会に行くとかして恨み言を伝えなきゃならないんですよ。
そんなことしたいか?
しかもそれをしたところで、周囲の人が態度を変えてくれるわけじゃないでしょ。
正論だけれど心ないなぁ、と一番強く感じる部分。もっとも、「世間とはそういうもの」でもあるんだけどね。
このへんが小説で読むとより、もやもやするところでもあり。と、いうか小説の方は、書いてる作者本人も着地点が見えずに書いてたんじゃないかと思っちゃうのよね~。
ミュージカル版を見てからは読み返してないから、今読んだら少し違う印象を受けるかもしれないけど。
時間ができたら読んでみようかしらん(いつになるのやら)
そうそう、あと犯罪被害者の遺族役を染谷恍太さんが演じられてたんですが、染谷さん素晴らしかったー!
母親を殺された怒りと悲しみを表すところも、ラスト近く、許せないけど忘れよう、「お互い長かったなぁ」と直貴に語り掛けるところも、本当にすごかった。
そういえば以前は新国立劇場の小劇場で上演された「手紙」ですが、今回はブリリアホール。
ブリリアは、以前ジェイミーを観たときは「お 音が・・・!」だったんですが、今回はまったく不満を感じませんでしたよん。
個人的には、「手紙」は規模の小さい会場での上演のほうが好きですけども。作品世界に合うと思うし。
一度大きな会場で上演されると、小さいところに戻すのは難しいかな・・・あ、でもスリル・ミーの例もあるか。
次があればぜひ小さいところで観たいですw
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