舞台「Defiled-ディファイルド- 」を観てきました

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青山DDDクロスシアターで上演中の舞台「Defiled-ディファイルド-」を観てきました。

7月6日は私の愛する小西遼生さんと、鈴木壮麻さんの出演回を観て。

家に帰って夜は千葉哲也さんと成河さんのペア回を配信で観るという、これまでに経験のないマチソワをしましたわ(笑)

キャストが日替わりで変わる ふたり芝居

Defiledはふたり芝居。

2000年にアメリカで初演された作品で、その時のキャストはピーター・フォーク(コロンボ刑事!)とTVドラマで人気の俳優さんだったんですって。

日本では2001年、2004年、2017年に上演されており、今回は朗読劇として、内容もちょっと変更されているのだそうです。

2020年7月1日に開幕し、8月2日まで一ヶ月続きますがその間、同じ組み合わせが舞台にあがるのはほんの数回という、日替わりキャスト方式。

感染症対策で客席数を減らし、前後左右を空席にしての公演は不思議な感じでした。

座ってる身としてはある意味、快適でしたけど、みっちりと観客がいる方がいいよねやっぱり。

あらすじ

ハリー・メンデルソン、図書館員。自分の勤める図書館の目録カードが破棄され、コンピュータの検索システムに変わることに反対し、建物を爆破すると立てこもる。目まぐるしく変化する時代の波に乗れない男たちが、かたくなに守り続けていたもの。神聖なもの。 それさえも取り上げられてしまったら…。

交渉にやってきたベテラン刑事、ブライアン・ディッキー。緊迫した空気の中、巧みな会話で心を開かせようとする交渉人。拒絶する男。次第に明らかになる男の深層心理。危険な状況下、二人の間に芽生える奇妙な関係。
果たして、刑事は説得に成功するのかー。

「神聖なもの」はなに?

公式サイトによるとDefiledとは「気高く、神聖なものが汚されること」だそう。

では汚された神聖なものとはなに?

あらすじを読むと、
「めまぐるしく変化する時代の波に乗れない男達が、かたくなに守り続けていたもの」
とあって、

ああ、ハリーが守ろうとしてるカード目録のことなのね、と
思ってしまいそうになるけれど。

たぶんそれは表層的なことだよね。

余談ですがこの場合「汚される」より「穢される」のほうがしっくりきます──その精神性を尊重せず、ないがしろにした、というニュアンスで。

ネタバレします!未見の方はご注意ください

ブライアンが「人として」ハリーに向き合うことで、説得は成功したかに思えた。

でもハリーはブライアンだけを外に出し、自分はまた館内へ。

結局銃撃されて倒れ、ハリーは図書館を爆破する・・・のかな。

爆発音は響くけど、ハリーの心象風景とも受け取れるので、ここは断言できないところですね。

心象風景とはどういうことかっていうと、実際には爆破してなくて、銃弾に倒れたハリーの薄れゆく意識の中で、図書館が崩壊していく様の表現なのかなって思ったのね。

もう、すでにハリーの概念としての図書館は、電子化が始まった時点で壊れているので。

あとね、今回のリーディングスタイルでは表されてないんですが、元々はハリーが銃撃された後、起爆装置を押すんだけど不発。ってところがあるんですって。
※高野しのぶさんの観劇レビューで拝見しました。2017年の上演レビューで、とても良いのでぜひ読んでみてください
→ http://shinobutakano.com/2017/04/26/5375/

そこでハリーのセリフ

「ちくしょう、何がテクノロジーだ」

つまりリモコンが利かなくて、テクノロジーめ、肝心な時に役立たず。

っていう含みがあるってことよね。

そしてハリーがリモコン起爆装置というテクノロジーを最後の手段にしていた、っていう皮肉も。

その後、爆発音が響く。

ハリーの中ですべてが終わり図書館や文化が崩壊していく、っていうふうにも取れるし、リモコンの不調で時間差で爆発したとも取れる。

これさ、時間差で爆発したとしたら、踏み込んだはずの警察官達も吹っ飛ばしてるでしょう。

「誰も傷つけたくない」と言ってたハリーが、結局は図書館という建造物だけでなく、多くの警察官を犠牲にしたとしたら───

劇中にあるブライアンのセリフ、

「君が手にしたのは暴力だ」

が効いてくる。

どんなに崇高な理想をかかげても、力で制圧を目指したらそれはテロ。

ハリーが穢した神聖なものは、自分自身の理想だったとも言えて

ううむどう考えても闇(゚∀゚)

ハリーも相当こじれてるけど、ブライアンもくせ者。

立てこもり犯であるハリーと、刑事で交渉人のブライアンでは、それぞれの「神聖なもの」が違う。

この、まず出発点が違うってことに最後までふたりが気づかない。というか理解しようとしない?

それがとても哀しいし苦しい。

ブライアンにとっては「日々の暮らし」「手の届く範囲、家族を守り、育て朽ちていく人生」が救うに値する神聖なもの

一方、ハリーにとっては唯一、自分を満たしてくれた「文化と歴史、書物と知識」こそが神聖なもの。

ハリーにとって真にショックだったのは、歴史あるカード目録をコンピュータにピコピコと代行されることではない。

プロフェッショナルとして認められていた(と信じていられた)司書としてのスキルを「要らない」と扱われたことだと思うの。

そういや、セリフに「司書ってイメージが良くない」って出てくるんだけど、そうなの?
少なくとも私はそんな風に思わないので意外に感じたわ~

根暗に感じるとかそういうこと?図書館勤め=読書家=根暗ってこと・・・?ってなったw

カード目録を廃止せず、図書館に置いておくことがハリーの要求。でも、その内訳は
「自分と自分のスキルを軽視したことを許さない」ってことなんだろうなって。

もちろん、それまでの偉大な功績を無視して、どんどん効率化されていく状況に待ったをかけたい、という気持ちも大きくあるんだろうけど。

ラストは自分が愛した文化と、不要とされたカード目録との無理心中なわけで。
スーパー闇ラスト(゚∀゚)ってなりました・・・。

カード目録を主軸にしてるけど、大切に守りたかったのは文化であり、それを育んできた歴史であり。

そういうのって、いわゆる「経済的に合理性はない」けど未来のために必要なものよね。

でも経済的合理性を追求すると、そういうものって残せずどんどん消えていってしまう。

自分が大切にしてきた、満たしてくれる「本」と「読書体験」、そして本が与えてくれた「知識」。

そういったものを残したい、残さなきゃいけない!と思うのに、現実には何も出来ず消えていくものたちを眺めていることに、耐えられなくなったのかな。

経済的合理性によって弾き出された腹いせに、コンピューター導入済み、歴史的な建造物である図書館を爆破して、経済的ダメージを与えるのも毒が効いてるわ(怖)

メリンダは本当に悪い女?

ハリーの元カノ、メリンダって人が話に出てくる。

元々の脚本ではハリーと電話で話すらしいんですが、今回は全くやり取りしません。

てかハリー、全身で拒否w

ハリーの言い分を聞くと、メリンダは結婚式の直前、大学の修士論文をハリーが代筆し終えたとたんに別れを切り出したらしい。

ハリーを自分の利益のために利用した、すごく悪い女ってニュアンスで出てくるんだけど・・・

メリンダは本当に悪い女なのか?っていう疑念がわいてきちゃう。

というのも、ハリーの言うことや話の展開を聞いているとね、なんかこう
「合理的な選択を軽蔑しそう」なニオイがするんですよ。

つき合っててちょいちょい、そういう面倒くささを感じてたんじゃないのか。

結婚間近になって「やっぱりこの人とは・・・」って思われちゃう何かがあったんじゃないか。

と、思ってしまうわ~、私もダテにダメ男を渡り歩いてきたわけじゃないからね~
(自慢するとこ違う

自己肯定感の低さとプライドの高さのアンバランス

ハンサムになった気分を味わいたかったので、催眠術師のところへ通ってた、って話も出てくる。

完全にワケわかりません(笑)

自己肯定感が低いんだなってのは分かるけど・・・

「なかなか立派な顔をしている」と表現されるところをみると、パーツが大きくて無骨なつくりなのかな。

容姿に自信がない
だったら身体を鍛えるとかセンスを磨けばいいと思うよ。なんで催眠術?

その女の前ではハンサムな男として振る舞えた、ってのもなんか
・・・キャバクラかよ?って思っちゃうね!!

実際にはどうでも、「そう扱ってくれる人がいれば満足できた」

それ、究極にその場しのぎじゃないですか。

すべてがそんなふうで、
「なんでも人から与えてもらおうとしてはダメ、自分で手に入れなきゃ」
そこまでは掴んだのに。

話が進むとブライアンに
「僕の方が正しいと表の連中に言ってくれ」「僕に味方しろ」
オマエ結局そうかぁあああ!!

そんなだから!一匹狼とかいうけど!!言っちゃえば「寂しいぼっち」なんだろうがよーもー
(容赦ない

愛する俳優・小西遼生さんが演じているので、最初は好意的に観てるのに。

だんだん腹立たしくなってくるのよハリー(゚∀゚)w

そういえば成河&千葉バージョンと、小西&壮麻バージョンはセリフがだいぶ違いました。

最初はアドリブかと思ったけど、そうじゃなく台本自体が違うんだと思う。

役者の違いだけでなく、セリフの違いでもかなり、浮き上がる人物像が違って面白かったです。

小西ハリーは傷ついてるし拗ねてる感じが強くて、大人になりきれてない。

成河ハリーは人を試すというか・・・なんていうんだろ

「僕の話を理解するには、一定の素養がいりますよ」

って感じがする。そして千葉ブライアンはかなり、狡猾(笑)

壮麻ブライアンは上品でおっとりしてるけど、深層に澱みがあり疲れてる人。って感じがしましたよ。

つい妄想してしまう、物語の「その後」

ブライアンは少し、ハリーに寄り添ったようにも感じるけど、あくまでも職務を遂行してる大人なのよね。

最後の最後に「カード目録は自分ちのガレージにおけばいい」と提案したし
それはその場しのぎの嘘じゃないと感じる。きっと実際にそうする。

でも・・・
ハリーと友人にはならないよね。

奥さんはハリーと親しくできたかも?
あっ、でもそしたらハリーは奥さんに懐きすぎるかもね・・・それはそれでまたトラブルを呼びそう

どっちみち明るく楽しい未来は想像できないw

ハリーのしたことで、ブライアンは交渉に失敗したと判断されるよね。
もう、刑事はやめるかもしれない。特に壮麻ブライアンは打ちのめされてそう。

そして奥さんとイタリアへいくかもしれないなぁ
散らかったガレージを見る度に胸のどこかが痛んだり、ハリーを悼んだりするのかも。
などと妄想しました。

ところでブライアンはハリーと電話中だったんだから、ハリーを撃ったのは別の人だよね・・・?
であって欲しい。

さてDefiled。客席数を減らした代わりにといいますか、劇場へ行かずとも楽しめる「VR配信」が準備されておりまして。

成河&千葉ペアは配信で観たのね。

チケットがゲットできなくても、都内への移動が難しくても、「観られない!」ってことがないのはありがたい!

というわけで、早々にVRゴーグルをゲットしたわたくし

どんなもんかなと思いましたが没入感があっていい!

観るためのものは、メガネタイプより頭部をすっぽり覆うタイプの方が好みと思いました。

役者さんの細部が観られるとかそういう理由でなくて。演目に没頭できる

少なくとも、リビングの様子が目に入るTV画面や、PCのモニターで観るよりは、お芝居に集中する環境ができました。

配信だと出かけていかなくていい、つまり行き帰りの時間を計算して家族の食事をどうするかとか、そういう細々したことに悩まなくていい。

ってのもあり、観られるだけ観たくなりますけどね!

キャストによってどんだけ違うのか、感じられるものもその都度違うだろうし、知りたくなる。

現にあと何パターンか買い足しちゃったし~

結局

  • 成河さん×千葉さん
  • 遼生さん×壮麻さん
  • 和樹さん×壮麻さん
  • 東さん×岸さん
  • 成河さん×中村さん
  • 章平さん×千葉さん
  • 上口さん×和樹さん
  • 彼方さん×遼生さん

を観ました。皆さんそれぞれ違って皆よかった!

劇場での観劇体験に勝るものではないけど、こういう施策があれば観劇できるチャンスが増えるのも事実。

何より、演者さんが舞台に立つ、スタッフさんがそれぞれの仕事をする機会があるのが、意味あることだと思うのです。

この作品を今、上演する意味を考える

カード目録に執着するハリーに、とりあえず新しいことを始めてみて、ダメなら戻せばいいじゃない、ってブライアンが説得するところがあるんですが

これね、今の舞台演劇に通じるものがあってちょっと苦しい。

配信でも映像でもやっといて、また舞台が出来るようになればやればいい。

それはそうなんだけど
生の舞台に立ってない、生身の観客の前で演じないことで鈍っていくものって絶対あると思うし。

制作側がそう考えて上演しているのかはわかりませんが、私の中ではそんな風にリンクして、ちょっと苦しさを感じました。

観客側だっておなじことよね。

昔、映画を死ぬほど見ていた時期があったの。

そんな時でも、見てない時期が続くと感受性が鈍るらしく、派手で分かりやすいものしか面白いと感じなくなっていくのね。

でも日に何本もの映画を観ていると、こっちの感覚が拡がって、ほとんどの映画で面白さをキャッチできるようになっていく。

その「ひらく感じ」というか「鋭敏になっていく感じ」が、とても好きで嬉しかった。単純にいえばハイになってるんだろうけど、見続けないと脳がその状態にならない。

今回のことで何ヶ月も劇場に行かなくなって、その時のことを思い出してる。

人と比べて鋭覚かどうかはわかんないし、そこはどうでもいいけど、「昔より感覚が乏しくなったな」って感じたくないなーと思ってるの。

とはいえ、感染症が蔓延したままで以前と同じ幸福な観劇体験が出来るはずもないので、一日も早く解決策・有効な予防策が得られるようにと願っています。

と、いうわけでDefiled面白かったです!いつか、リーディングでない上演も観たい!

コメント

  1. へちま より:

    初めまして、へちまと申します。
    成河さんが好きでディファイルドを昨日観劇しました。
    あまり頭がよくないので、まみろうさんのディファイルド感想を興味深く拝見しました。
    人の有機的なつながりで保たれる舞台を、配信することにとても皮肉を感じました。
    まみろうさんがおっしゃるように、起爆装置というテクノロジーに頼ったハリーもすでに負けているように思います。
    以前に公演された舞台のことを知らなかったので、ハリーが撃たれたこと、起爆装置がうまく作動しなかったこと、最後の爆発はもしかしたらハリーの心象風景かもしれないということがとても刺激的でした。
    小西さんは拝見していませんが、成河さんのハリーはクレバーで、めんどくさそうなやつだと思いました。
    他のペアも興味が出てきました。

    私は村井國夫さんも好きなので、キューブの舞台で小西さんは何度か拝見しています。率直に美しい人だと思います。写楽の時のカッコよさは本当に記憶に残っています。

    来月配信でディファイルドを見るつもりですが、私の携帯は対応していなくて、これからスマホを中古で買うつもりです。もしよろしければまみろうさんのスマホの機種を参考までに教えて頂けないでしょうか?買い足しが間に合えば配信を増やしたいと思います。

    演劇界はコロナのせいで手探り状態ですが、私は演劇空間が好きなので、推しを生で観られることがこんなに幸せなのかと痛切に感じました。
    お互いに鋭敏な感覚を保ちつつ、推しを応援したいですね。
    ステキな感想をありがとうございました。

  2. まみろう より:

    >>へちまさま

    いらっしゃいませ。お返事が遅くなり失礼しました!
    本当に、この「生でこその舞台を観に行くことが難しい」状態は
    どうにかならないものかと思います・・・
    私のここ数年の、生きる糧なので(笑)

    私のスマホはiPhoneです。
    何ペアか拝見していますが、今のところ
    成河さんの時だけ台本が違っていて驚いています。

    観るたびに気づきや想像が拡がる演目で、
    できればリーディングでなく演劇でたっぷりと味わいたかった~と思ってます。

    こちらこそ読んでいただき、そしてステキなコメントもいただいて
    とても嬉しいです!
    ありがとうございます♪