品川の六行会(りっこうかい)ホールで、ミュージカル「In This House ~最後の夜、最初の朝~」を観てきました。
この演目は2018年の4月にも観ておりまして。大変に良かったので、再演も観に来たというわけです。
初演は東京芸術劇場のシアターイーストでしたが、再演は品川の六行会ホール・・・
どこよ(゚∀゚)って思ったw
ホールはこじんまりとしてましたが設備が良くて、
「こんなところにこんな良いホールが・・・」
って思いましたよん。
2組4人の男女のやり取りから浮き上がる、誤解と理解
In This House は4人芝居。
何かうまくいってなさそうな老夫婦と、若いカップルの2組が、それぞれ話したり聞いたりしているうちに、互いのパートナーとのすれ違いや齟齬が浮き上がってくる。
年代の差も条件の差もあるけれど、その根本は同じところにあるように感じる。
とても愛し合っているし、誰も特殊な人じゃないのに、どうしてズレていくんだろう。
真剣に誰かと向き合いたいと願ったことがある人なら、必ず胸に響くと思える作品でした。
In This House ~最後の夜、最初の朝~ のあらすじ
とある大晦日の夜。
年老いたヘンリー・アーデン(岸祐二さん)と妻のルイーサ(入絵加奈子さん)は、かつて彼らが住んでいた家にやってきた。
長年放置されていたらしい家は、壁の一部は壊れ、ドアも壊れている。夫妻の間はなんとなくギクシャクしており、どうやら会うのも久しぶりの様子。ふたりは過ぎた歳月を振り返る。
そこへ、若いカップルが助けを求めてやってきた。
ジョニー・ダマート(川原一馬さん)とアニー・フリードキン(綿引さやかさん)と名乗るカップルは、雪道でスリップし車が故障。立ち往生してしまったという。
夫妻に電話を貸して欲しいと頼むが、ヘンリー達の朽ちはてた家に電話はない。
ジョニーとアニーは、大晦日の夜をヘンリーとルイーサと共に過ごすことになった。
4人はそれぞれ、自分について語ることに。
ヘンリーはかつて、プロの野球選手だったこと。
ルイーサとヘンリーは大恋愛の末に結ばれたこと。ジョニーは彼の家族がそうであるように、警察官の職についているが、スポーツや文学の才能もあったこと。
アニーは世界中の被災地を駆け回るトリアジー・ナースであること。楽しげな語らいは、やがてそれぞれが抱える問題と、隠してきた真実に近づいていく。
ヘンリーが野球を止めて農夫になった理由、ルイーサがずっと言えなかったこと。
アニーと結婚して家族に迎え入れる、それをアニーも望んでいると信じて疑わないジョニー。
陽気で無礼講なジョニーの家族になり、家庭に入ることに違和感が拭えないアニー。夜が更けるにつれ、4人は少しずつ胸の内を話し始める。
引用元:In This House ~最後の夜、最初の朝~2019年版パンフレットより
初演の時とすごく違って感じたことがいくつか。
まず個人的に、岸さんの「おじいさんぶり」がハンパなかった(笑)
初演時もすごい老けっぷりだったんですけどね、なんかしょぼくれたおじさんで、あまり魅力的には感じなかったの。
岸さん好きなのでちょっとショックなくらいだったんですけど、今回は老け具合が増しているのに、なんだかチャーミングなんですよ。
ちょっとした動きや話し方も、肉体労働に従事してきた「疲れた感じ」がとっても強くて、でも真剣に、大事なものを抱えて生きてきた人、って感じがしました。
ルイーサ役の入絵加奈子さんも、今回の方が老け具合が増してましたね。
老夫婦のおふたりが老けていることで、若いカップルの「これからへの期待と不安、苛立ち」が浮き上がっていたように思います。
アニーを演じた綿引さやかさん、私好きなんですよ~うまいですよね!
キビキビした動き、現代の仕事を持つ女性って感じの強さと、可愛らしい女の子らしさが混じった絶妙なキャラクター。
ただ元気なだけじゃない、聡明な女性でもあって、だからこその苦悩もすごくよく分かる。
その恋人のジョニーを演じる川原一馬さんは、再演からの参加。なので、ジョニーの造形が全く違っていました!
初演のジョニーはひたすら明るく、
「も~とにかくアニーが大好き!早くボクのお嫁さんになって、幸せになろうよ!!」
みたいな感じでイラついたw(役ですよ)。 いや、可愛かったけどね。
今回のジョニーは、物語が進むにつれて、彼の中にある鬱屈したものがどんどん顕わになっていく感じ。
以前のジョニーは20代半ばくらい、今回のジョニーは30代ちょっとくらいかなって感じました。
そして、アニーが彼の文才やスポーツの才能についてアーデン夫妻に話すのを、本当にやめて欲しそうなのね。
もう、諦めたこと。もう、自分の未来には関係ないこと。そこをつつかれると痛いから、触らないでほしい。
そんなジョニーでした。
大切なひとと向き合うこと。思いを伝えること。必要なのに怖いのはなぜ
ふた組の男女は、それぞれに「言わないできたこと」がある。
アーデン夫妻は、亡くした娘を授かった時のこと、亡くした夜のこと、野球選手という職を失ったことについて、秘密と後悔を抱えてる。
ラスト近く、やっとお互いの秘密を打ち明ける。
そしてある意味の解決をみるんだけどさ。
近しい間柄で、しかも相手の気持ちを思いやるほど、言えないことってあるよなぁと胸が苦しくなります。
でもアーデン夫妻、もっと早く話し合っておいて欲しかったよ・・・そうしたら晩年、もっと違う様子になっただろうにね。
アニーとジョニーは「結婚して家族になること」に温度差が否めない。
特に、若いふたりには人種の違いもある。
アニーは、やたら開放的で気安く触ってきたり、なにかと干渉してくるジョニーの家族にちょっとうんざりしてる様子。
そしてトリアジー・ナースという、世界中を飛び回り悲惨で過酷な被災地での救命活動を仕事にしているアニーの、仕事への使命感を、ジョニーは今ひとつ理解していない様子。
愛し合っているのは間違いなくて、お互い必要としているのに、未来についてはかみ合ってない。
その「かみ合ってなさ」を感じつつ、だけど口に出して問題提起すると、この関係が終わってしまいそうで言えない・・・
という歯がゆさ。
アニーはかなりハッキリとものを言うんだけど、その「肝心なこと」については はぐらかしてきた。
というか、後回しにしてきた、っていうのかな。
分かってるけど、話し合うのはまた今度。仕事で疲れて帰ったら、ジョニーに癒して欲しい。今はそれだけでいい、と思ってるみたい。
ジョニーはイタリア人ってこともあり、愛してるならとにかく家族になろうと思ってる。
そしてこれが問題なんだけど、結婚して子どもを育てて、大家族の中で愛し、慈しみ合って生きていくのが絶対の正解だと思ってる。
正解というか、他の考えがあるなんて知らなかった、みたいな感じ?
そしてジョニーの言葉の端々には、
「アニーは家族(特に父親)に認められる嫁にきっとなってくれる」
っていう期待を感じるの。
コレね、かなり面倒だと思うよ(笑)
でもアニーはもっと個人主義でロジカル。愛してることと、家族になることは別な次元の話でさ。
このへん、かつては会社に属してガンガン働く女だった私にも、よーくわかる。
だから結婚遅かったしね(笑)
結局、お互いに向き合い、思いを伝えることになる。
すんなりと納得はできないままのふたりだけど、とにかく共に帰ることにするジョニーとアニー。
その姿を見送り、お互いの胸に隠していた秘密を語り合うアーデン夫妻。
問題が解決してスッキリ!という終わり方じゃないんだけど、爽やかな余韻を残してくれて、だいじな人に会いたくなる。
そういうお芝居でした。
観劇を深める会に参加しました
ところで、この再演ではとある公演回の後、WebマガジンMusical Theater Japanさんの企画で、「観劇を深める会」というのが開催されました。
作り手さんのお話と、同じお芝居を観た方ともお話できるとあって、参加させていただきましたよん
ミュージカルを鑑賞後、少人数で集まり、プロデューサーを交えて感想を語り合う「観劇を深める会」を、『In This House』終演後に開催しました。作り手の思いを聞きながら、ざっくばらんにお喋りし、舞台を振り返る豊かなひととき。また機会があれば企画したいと思っています。https://t.co/YlwItZkifJ
— Marino Matsushima (@marinotokyo) November 26, 2019
楽しかったわ~!私がAさんBさんのどっちなのかは、ご想像にお任せしますw
観劇好きなお友だちと、観た後にそれぞれの感想や解釈を話し合うことはよくある。
と、いうかそれを楽しみに観ているフシもある(笑)
けど、作り手さんのお話はなかなか聞けないですからね。こういう機会はとっても嬉しいし、すごく楽しかったです。
余談ですがMusical Theater Japanさんは、
「ミュージカル初心者の方々にも気軽にご覧いただきたいため、課金制ではなく、全ページ公開」
としてWebマガジンを運営してらっしゃいます。
しかし当然、運営にはお金がかかるもの。そこでサポーターを募集しておられます。
↓詳しくはここからどうぞ
500円から参加できますんで、こういった活動に興味があればちょっと見てみてくださいな。
てなわけで、ミュージカル「In This House ~最後の夜、最初の朝~」はとても良い作品でした。
再再演があればまた、劇場で観たいと思います!
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