三軒茶屋のシアタートラムで上演中の舞台「岸 リトラル」を観てきました。
昨年の3月、同じ劇場で観た「炎 アンサンディ」と同じ作者が書いた作品。
書いたのはレバノン・ベイルート出身のワジディ・ムワワド氏で、彼の「約束の血 4部作」の1作目にあたるものなんだそう。
「炎 アンサンディ」に通じる作品ながら、もっと強く、まっすぐに狂気と魂の叫びを感じて、ヒリヒリしながら帰ってきました。
「岸 リトラル」って、一番最初の台本の状態では、8時間もあったんだそうですね。初演は5時間半の大作だったとか。
その後、再演を重ねるたびに凝縮され、今回の日本初演版は、最新の状態のものを使っているんだそうですよ。
それでも休憩合わせて3時間半。そりゃもう、見応えありました。
役者さんは8人。そのうち、ひとりでひとつの役を演じているのは青年・ウィルフリードの亀田佳明さんと、青年の父・イスマイルの岡本健一さんだけ。
残りの6人で、35人の人物を演じ分けてました。
衣装替えなどさぞかし大変でしょうね~観てるときは話に入り込んでて全く、そんなこと考えませんでしたけど。
主人公・ウィルフリードの亀田佳明さんも冒頭舞台に出てきたら、そのままず─────っと舞台上にいます。出ずっぱり。
過酷な内容と相まって、ちょっと心配になりますね。ってプロに対して失礼ですけど(汗
公演がすべて終了するまで、どうぞご自愛くださいませ。
さて物語はこんな感じ。
ウィルフリード(亀田佳明さん)は、物心がつく前に離ればなれになった父・イスマイル(岡本健一さん)が亡くなったという知らせを受ける。
死体安置所で父の遺体と対面し、確認した彼は、自分を産んだときに亡くなった母・ジャンヌ(中嶋朋子さん)の墓に、父も一緒に埋葬しようと考える。
しかし母の親族はそれには大反対。彼の父は、母の親族に疎まれ、憎まれているようだった。
誰も語らず、封印された父の過去。ウィルフリードは父の痕跡をたどり、父を埋葬するのにふさわしい場所を探すため、内戦の傷跡が残る祖国へ向けて旅立つ。
父の亡骸を背負い、歩き出すウィルフリードの傍らには、幼い頃から彼の想像上の友だった騎士・ギロムラン(大谷亮介さん)と、父の魂も一緒だった─────
死んだ父親が突然動き出し、あれこれと話しかけてくる。どんどん腐っていくのに、陽気だったりするのが面白い(笑)
イスマイルは息子・ウィルフリードに、旅先で膨大な量の手紙を書いていた。でも1通も出さなかったので、息子には届いていない。
亡くなった父の遺品として、赤いスーツケースを手にした息子は、その中にあった手紙を見つけて読みふける。
父から子へ、出されなかった手紙。なぜ出さなかったの、と聞く息子に、父は
「今日は出そうと思って書く。でも、なぜか上着にしまってしまうんだ」
と答えるシーンがありましてね。とんでもない孤独と絶望を感じてしまい、もうそこで泣いてた(涙)
3時間半あるお芝居で、正直「あっという間」とはいえなかった。特に2幕ね。長くてツラい。
といっても退屈だったわけではないのよ。内容が過酷なもんで、早くラクになりたいと感じてしまったの。
人はどこまで、むごくなれるんだろう。お話の終わりには救いを感じるのだけど、途中途中で語られる、人々が受けた行為が、ほんとうに酷くて苦しい。
でも現実なんだよね。現実にそんな目にあった人がたくさん、この現代にいるんだよね。
知らなきゃいけないことだけど、もうたくさんって気になっちゃう。
昨年観た「炎 アンサンディ」よりも笑える部分が多いのに、とっつきやすくはなかったですね。
「炎」は分かりやすかったんだなぁとしみじみ思った。
「炎」が鋭い切っ先の刃物で突き刺される感じだとしたら、「岸」はゴツゴツした鈍器で淡々とぶたれる感じです。
致命傷には遠いのに、ダメージが大きいったらない。心身共に健康なときでないと、太刀打ちできない芝居だなと感じましたわ。
一度は生まれた村に着き、そこで父を埋葬できるかと思いきや、場所がないよと言われてしまうウィルフリード。
父の遺体を埋葬するのにふさわしい場所を探して歩き回るうちに、さまざまな若者たちと出会い、合流して旅を続ける。
合流した若者たちはそれぞれに深い傷を負っている。
家族をすべて亡くした女、自分の父親を殺してしまった男、親に捨てられた男、両親を目前で殺された男、死んだ人の名前を覚えておくため書き留めている女。
いつしか、イスマイルはウィルフリードだけでなく、若者たちすべての父となる。ひとりひとりに向けられる「父のことば」は、若者たちを明日へと押し出す。
どんどん腐っていく死体を表現するために汚れが蓄積されていくのは予想通りでしたが、「洗って清める」のを表現するために、新たな色を重ねるのは衝撃でした。
岡本健一さんの身体が、カンバスに描かれた抽象画みたいになるのよ。
ウィルフリードが父・イスマイルの祖国に行き、耳にする出来事は、できるなら知らずにおきたかったようなもの。
それでも、ひとつひとつの出来事を知ることで、父は間違いなく生きていた、存在していたと感じる。
その象徴が、あのラストのペイントで一層鮮やかに浮き上がったと感じました。
それにしても岡本さん、素晴らしいプロポーション。私とあまり、歳が違わないはずなんだけど・・・
ってもちろん、芝居も素晴らしかったですよ!
妄想の中の騎士・ギロムランを演じた大谷亮介さんもステキでしたね~!
立ち姿がいいし、声がいい。
とぼけた味もあって、重苦しい作品中の、貴重な癒やしでした。
中嶋朋子さんが芝居がうまいのは知ってましたがね~、中東の歌もあんなにうまいとは思わなかったなぁ。
考えたら、歌うの聞いたのは初めてかも?ステキでしたよん。
ウィルフリードの亀田佳明さんは、私はお初だったのかな。でも声に聞き覚えがあるような。いい役者さんですね!
最初のうちは頼りない、フラフラした若者に見えてたウィルフリード。
それが、生前の父や、共に行動する若者たちの痛みを知り変わっていく姿が感動的でした。
栗田桃子さん・小柳友さんは「炎 アンサンディ」にも出演されてましたね。
栗田さん安定のうまさよ。なんであんなに芝居がうまいの。彼女が何かしゃべると、すごい引きこまれてしまう。
小柳さんは悲しく残酷な過去を持つ粗暴なアメが印象的。彼への赦しが、一番胸に来たわ~。ポルノショップの客にはウケたけど(笑)
強烈に寂しい境遇なのに穏やかなマシを演じた鈴木勝大さんも、目前で両親を殺され侮辱された過去をもつのに優しいサベを演じた佐川和正さんも、本当に本当に良かったです!
どんな人にも「面白いから観て!」とは勧めにくい作品。正直、観るのにかなり、覚悟が要ります。
遠い国の真実って意味でも、戦争がどんなふうに人を壊すかを知るって意味でも、「本物」を見る勇気はとても、持てません。
でもそれを演劇という緩衝材を通して、ほんの少しでも知ることが出来る。
それが、こういうお芝居を上演することの意味なのではないかと思いました。
ツラくもあるけど、観てよかった。
岸 リトラルは2018年3月11日まで、シアタートラムで。3月17日は兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演です。
これから行かれる方はぜひ、気力・体力充実した状態で臨まれますように!
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