舞台「猟銃」を観てきました

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中谷美紀さん主演の舞台「猟銃」を観てきました。

2011年、美紀さんの初舞台だったこの作品、今回は再演。

絶対に観たい!と思ってました~、そして観て良かった!としみじみ思いましたわ!

原作は井上靖の短編。無名だった井上氏が、一躍注目されることになった初期の作品のひとつだそうですね。

 

物語は、13年間にわたり妻の従姉妹と不倫を続けていた男性が、3人の女たちから受け取った手紙を、語り部である詩人に送ったところから始まります。

詩人は冒頭の、女たちの手紙が読み始められるまでの間だけ存在します。声だけの出演で姿はナシ。この声は池田成志さんだったんですね。パンフレット見るまでわかりませんでした。

舞台には3人の女を演じ分ける中谷美紀さんと、女たちから手紙を受け取った「三杉穣介」を表現するロドリーグ・プロトーさんのお2人のみ。

プロトー氏には台詞はなく、身体表現で穣介の心情を表すだけ。手紙の文面を台詞として話し続けるのは、中谷美紀さんひとりなの。

これが本当に!凄かった!

劇中100分間、たった一人で喋りつづけるだけでも凄いことなのに、3人の女性を演じ分ける・・・

本当にえらいことでした。いやはや感服。

さて、ここからあらすじと演出についてネタバレします。ご注意くださいね~

 

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女たちは20歳の「薔子(しょうこ)」、穣介の妻「みどり」、薔子の母でみどりの従姉妹、そして穣介の愛人である「彩子(さいこ)」の3人。それぞれが穣介にあてて書いた手紙の内容から、穣介の人物像と、女たちそれぞれの姿が浮かび上がってきます。

穣介は彩子と13年にわたり不倫を続けてきた。妻のみどりはそれを知っており、13年間口に出さずにきた。彩子はみどりにこの関係を知られたら死のうと考えていて、実際自殺してしまう。

薔子は穣介を、近しい叔父のように慕っていたが、母の自殺の前日に、穣介と母の関係を知ってショックを受ける。

女たちはそれぞれ、穣介に「貴方とはお別れする」旨の手紙を書く。

尊敬し敬愛していた穣介と母の関係を知り、激しい怒りを感じるのは、薔子の若さのせい。潔癖さと、愛情というものの多様性に対する無理解が、彼女を絶望させる。

穣介は彩子の娘である薔子に慕われていることを、嬉しく思っていたに違いない。だからこの薔子の手紙で、彩子と自分の関係を知られたばかりでなく、

「今後はわたくしに会おうとなさらないでください」

と拒絶されることになり、彼は最初の打撃を受けることになるのよね。

2通目は妻のみどりからの手紙。

みどりはずっと穣介に騙されているふりをしながら、実は13年前から彩子との不倫を知っていた。夫と従姉妹の裏切りに苦しみながらも、自堕落で奔放な生活を続けることで、穣介が自分に向き合うことを期待していた。

ところが夫は意に介さない風。ずっと苦しんできたみどりは、彩子の自殺の後、穣介に離婚を切り出す。

3通目は愛人だった彩子の手紙。自殺の直前に書かれた彩子の手紙は、何よりも深く穣介に衝撃を与えるものだった。

彩子は「この関係をみどりに知られたら、その時は死のう」と考えていた。ところが、見舞いに来たみどりから、ずっと以前から知っていたと聞かされると、心の重圧から逃れたような開放感を覚える。

と、同時に、彩子自身も気づいていなかった、ある想いに気付く。彩子は穣介と逢瀬を重ねながらも、ずっと離婚した夫のことを愛していた。そうして彩子はこの事実を手紙にしたため、自らの命を絶った。

結局、みどりは夫の穣介を誰よりも愛していたし、穣介は彩子を愛していた。でも彩子はずっと別れた夫を愛し続け、穣介を愛してなどいなかった。

彩子が死んだのは、ずっと夫を愛していたことを認識したからであって、みどりに不倫を知られたからではない。

 

3人の女性を演じ分けるのに、衣装が変わるんですけどね。美紀さんがどんどん、脱いでいくわけですよ。

薔子の時にはブラウスとカーディガン、プリーツスカートと女学生のような服装に、三つ編みにメガネだった。みどりに変わる時にはそれらを脱ぎ捨て、真っ赤なスリップみたいなドレス1枚に。

向こうむきで服を変え、くるりと振り向いた時には顔つきが違う。声の調子も全然ちがって、慇懃無礼な有閑マダムになってた。

そして彩子に変わる時には、その真っ赤なスリップドレスを脱ぎ、白いスリップ1枚に。しばらく向こうむきで立ったまま台詞を言ってたかと思うと、こちらを向き正座になり、そこからスリップまで脱いだので驚いた。

そしてそこから、鏡も見ないで和服を着付けていくんですよ。彩子の衣装は死に装束のような白い着物で、台詞も半分魂が抜けたような話し方。もう死んでしまった女の手紙を読んでいる、という心情が迫ってきて、なんともいえず不思議な気持ちになりましたねぇ。

 

そして舞台美術もステキだった!冒頭、ざあざあと舞台上に雨が降ってるんだけど、薔子が登場する時は足元が水たまりになってて、薔子が歩き回るたびにサブサブと水音がする。足元がしんと冷える感覚が伝わってきて、なんともいえず淋しい気分に。

みどりの時には水が引き、足元は丸く大きな石だらけに。みどりが歩くたびにザクザクと硬い音がした。それは硬質化した夫婦の関係性のようでもあり、打撃を受けた心を保つために、みどりが自らを硬く包んで守っていることの、象徴のようでもありました。

そしてみどりから彩子に変わる時、その石を載せた板が、ばたんばたんとひっくり返る!

ザラン、バラン、って石が床に飛び散る音がして、それがみどりの心の砕ける音にも聞こえる。ものすごく苦しかったわ~(苦悶)

↑↑↑↑↑ ここまで ↑↑↑↑↑

 

 

どうしてこのお話が「猟銃」なのか、ってずっと考えたてたんだけど、猟銃は獲物を狙い撃つ、だけど一撃で致命傷を与えられることは少なくて、大きな傷をつけるもの。ついた傷は回復することもあれば、死に至ることもある。

それがまるで「愛」の暗喩であるかのように、私には思えてなりません。

美しさの中で粛々と虚無へ進んでいく物語が、なんともいえず胸の奥に残る舞台でした。

ところで井上靖といえば私にとっては「敦煌」とか「天平の甍」とかの歴史小説家、ってイメージだったんですけど、かなり印象変わりましたね。

というわけで、美しい中谷美紀さんの美しい舞台で、素晴らしかったという話でした~

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