白石加代子さんの「百物語」ファイナル公演へ行ってきました

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わたくしの大好きな女優さん、白石加代子さんの「百物語」ファイナル公演へ行ってきました。

いやー、ただただ、

スゴイ!!

としか、言いようがありません。わたくし、口もきけないくらいヤラれてきました。

ええもう、圧倒されましたとも。

百物語、というのはご存知の方も多い通り、大昔から日本で行われてきた怪談の会のスタイル。まっくらな部屋で一人一話ずつ、怖い話・不思議な話を語り、語り終えたら百本のろうそくのうち1本を消す、というアレ。

百本目のろうそくを消してしまうと、本当の恐ろしいものが現れるとされているため、九十九話でやめて朝を待つんだそうですね~。

怪談嫌いの私は絶対に参加したくない集会よ(笑)

そう、私は怖い話が大嫌いなのよ!それなのになぜ百物語を聴きに行ってしまったのか・・・。それはもう、白石加代子さんがおやりになっているから、という、ただそれだけの理由に他なりませんわ!

って、今回は別に怖い話じゃなかったんですけどね~。

白石加代子さんといえば、藤原竜也さんのデビュー舞台「身毒丸」での、買われてきた母親役が有名でしょうか。私にとっては映画「女囚さそり」の強烈な女囚役が、私の脳に白石加代子さんを埋め込んだ作品でしたけども(笑)

佐藤健くんと前田敦子さんが主演したドラマ「Q10」で、田中裕二さん演じる担任教師の母親役もやってらっしゃいましたね~。

 

白石加代子さんの百物語のスタートは、1992年6月だったそうですね。それから足掛け22年にわたって続けられてきましたが、今年2014年の公演でついに九十八話・九十九話になり、ファイナル公演となったわけです。

22年にわたって続けていらした、いわばライフワークともいうべき朗読劇。そのファイナル公演を、見ないわけにはいきません!

私が行った劇場は、北千住のシアター1010。チケットは完売だったみたい。

シアター1010はこじんまりとした劇場だけど、音響がなかなか良くて好きな劇場です。

席に着き、開演を待っていると、加代子さんが客席の中ほどの通路から、涼しげな浴衣姿で登場。割れんばかりの拍手で迎えられてニコニコと笑い、客席に手を振りながら前方へ。

「ありがとうございます。まぁ、ようこそお越しくださいました」

ニコニコと可愛い加代子さん。もう70代のおばあちゃんなのに、声に艶もハリもあってほんとに若々しい。ファイナル公演で読む2つの作品の紹介をしつつ、だんだんと作品世界に引き込んでいくのが見事でした。

百物語と銘打っていますが実は怖い話ばかりではありません。ファイナルの2作品は三島由紀夫の「橋づくし」と泉鏡花の「天守物語」。どちらも怪談ではないけど、不思議な味わいのあるお話です。

 

橋づくしは満月の夜、無言のまま橋を7つ、願掛けをして渡りきると願いが叶うというのを、芸者たちが実行する話。ひとりひとりと脱落してしまい、願い事とは縁のなさそうな、付き添いの田舎女中だけが成功するという話。

芸者の一人の、人となりを表すのに舞台上でそうめんをすする、その姿が実に色っぽいし可愛らしい(笑)

途中、腹痛に耐えられなくなったり、知り合いに会ってしまって話しかけられたり、真夜中に橋のたもとで手を合わせている姿を見て、すわ飛び込み自殺かと勘違いした警官に職務質問されたりと、芸者さんたちの願掛けはことごとく邪魔されてしまう。

その様子がなんとも言えず可愛くておかしい!

人ってなんて馬鹿なのかしら。そのばかばかしさが、でも人ってこんなに愛おしい、とも思わされてなんだか嬉しくなります。

実は私は、橋づくしを読んだ時は好きじゃないと思ったの。短編の傑作と言われている作品だけど、三島らしい飾りつけの多い文章がどうも私にはピンとこない。

でも、加代子さんが読む橋づくしは、女たちが愚かで可愛くて、なんとも言えず魅力的だと思いました。

人はもともと、絶対に叶わない願い事を抱えて生きているもの。

作品中でそれはお金持ちになりたいとか、いい旦那が欲しいとか、愛しい役者と結婚したいとかいう通俗的なもので表されてて、それは絶対叶わないとも思えない程度の話なんだけど、どこかで「それはやっぱり叶わないよね」と分かる。

どうしてかって、絶対に叶えたかったら願掛けじゃなくて、他の方法で叶えるよねって思うから。

そんな 人の身勝手さ、都合のよさ、滑稽さを客観的に見ているうちに、なんとも言えない柔らかい気持ちになれました。

 

そして大ラス、最後の作品は天守物語。「夜叉ヶ池」と並んで泉鏡花の代表作とされている作品ですね。あるお城の天守から、美しい夫人が地上を眺めている。お城の殿様の夫人かと思っていると、実はこの世の人ではないと分かる。

地上の人々の愚かしさと騒がしさに、いたずら心を起こした夫人が殿様の鷹を奪い取ると、鷹を逃した罪で美貌の鷹匠、図書之介(ずしょのすけ)が天守に登ってくる。

夫人と図書之介は恋に落ちるが、地上の人々に追われ、店主の守り神である獅子頭の目を射られて盲目になってしまう。

悲観したふたりは心中しようとするが、そこに獅子頭を彫った桃六(とうろく)が現れ、獅子頭の目を復活させる。するとふたりの目も見えるようになり、桃六は嬉しそうに笑って去る。

というお話。

このお話、筋が進むにつれてだんだんと

「あっ、この人たちは『ヒト』じゃないのね」

と分かるところが好き。

美しい夫人の元へ、親しい姫が遊びに来るんだけど手土産が人の首。ところが持ってくる途中に血がにじんでしまい、見苦しくなってしまった、と詫びると、夫人の配下の者がそのこぼれた血を舐めとる。

最初の台詞から、違和感はあるものの確信はなかったのが、ここであれっ、この人たちは魔物だったのか!と分かるのが楽しい(笑)

登場人物が多く、人だったり人じゃなかったりするのを、加代子さんが一人で演じ分けていくのが見事です。そしてあなた、何が怖いって、芸のチカラがなんとも怖い。

だって立ち居振る舞いと声色、そして表情で、加代子さんは絶世の美女になったり、生首の血をなめる下僕になったり、美貌の青年になったりするのです!

怖いわ~!!

台詞は古風で難しい。しっかり聴いていないと、何言ってるか分からなくなる。それでもついて行けるのは、やっぱり語りの芸が半端ではないからなのですわ~。

会場で過去の公演DVD売ってたから、思わず買っちゃったよ(笑)

 

いやホント圧倒されました。もう、口もききたくないくらい感動して帰ってきました。最初はなんとか理論的に理解しようと働く頭が、完全に機能停止して ただただ心地よさに酔うことが出来ました。

この感覚を味わいたくて舞台を見たり本を読んだりするんだけど、こうまで痺れさせてもらえることってあまりない。加代子さん大好き。まだまだ活躍して欲しいです。

百物語ファイナル公演は、この後全国各地を巡業して回り、最終公演は10月1日の彩の国さいたま芸術劇場で。最後までお元気に、演じ切ってくださいませ!

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