舞台「SLAPSTICKS」を観てきました

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スラップスティックと聞くとボネガッドや星新一氏・筒井康隆氏の小説を思い出す世代の まみろうです。

世代のせい(?)で「ドタバタ喜劇」よりも、ちょっとウツに寄りそうな諧謔、シニカルさ、笑っちゃうほど悲観的な考えが描かれたものをイメージしちゃってました。

そんなもんで上演が発表になった時には、「ロマンティックコメディ」だと聞いて ほほ~、だったんですけどね。

開幕したら「確かに面白い・・・でもコメディって言っちゃっていいのこれ?」と戸惑いも感じたのでした。

あらすじ

ビリー・ハーロック(中年期は小西遼生さん)は、かつて大人気コメディアンであったロスコー・アーバックル(金田哲さん)の映画をリバイバル上映してくれる配給先を探していた。

しかし打診されたデニー(元木聖也さん)は乗り気でない。ビリーはデニーを説得するために、自分がかつて所属していた無声映画制作現場の話をしはじめた。

時は1920年、コメディアン志望だったビリー(青年期は木村達成さん)は大物監督マック・セネット(マギーさん)の映画会社で、助監督として働いていた。

ある日、ビリーが新作フィルムを編集していると、人気女優のメーベル・ノーマンド(壮一帆さん)が現れる。

彼女は酔っているようだったが、後を追ってきたせネットとやり取りするうち、実は酒でなく薬物で酩酊していたことがわかる。

焦りから薬物を少し吸引してしまったビリーは寝込み、17歳のころ好きだったアリス(桜井玲香さん)との日々を夢に見ていた。

一方、売れない女優のヴァージニア・ラップ(黒沢ともよさん)は、気晴らしにとサンフランシスコのホテルに。その日はアーバックルがパーティを開く日だった。

エージェントやアーバックルと顔見知りだったヴァージニアはパーティに参加し、アーバックルに相談があると持ち掛ける。

ハリウッドでは、メーベルのキャリアや薬物依存を心配していたセネットが、ビリーや俳優たちと食事しようとレストランに集まっていた。

そこへ アーバックルが逮捕されたと知らせが届くと同時に、ヴァージニアがアーバックル主催のパーティで暴行を受け死亡したというニュースが流れる。

アーバックルは変質殺人者として新聞に書き立てられ、人気も地位も失ってしまう。

死んだヴァージニアは誰にも届かない声を発しながら、映画業界に携わる人々の間をさまよっていた。

そんな中、ビリーはラジオ番組で、アリスが重大な証言をしていることを知る───

なにってこれね、1幕と2幕のトーンがもう全然違う。こんなに違う作品ってあるのかしらと思った。

1幕はマギーさんのアドリブに笑わされるし(カビ人間思い出すw)、トリップしたメーベルさんもかわいいし、マックセネットコメディズの俳優さんたちも個性豊かで楽しいたのしい。

ところがヴァージニアが死んでからの2幕、笑える箇所より苦しい箇所のほうが多くて眉間にシワが寄っちゃう。

苦しいなーと思いつつ観てると、ラスト無声で何かを訴えるヴァージニアの大写しで終わって、

「彼女は何を訴えたかったのか」

に、ものすごく引っ張られるんですよ。

何かを伝えようとしても伝える手段を持たない人の苦しさがこっちに迫ってきて、その虚しさを残して終わるというね。

私にはなんだか罪悪感じみた感覚が残って、単純にあー楽しかった、とは劇場を出られませんでした。

こういうのはすごくいい芝居だと思うんだよね。もちろん、ただただ楽しい作品も好きだけどさ。

提示されたものから、自分の中にふわふわあったものが輪郭を持ったり、それまでの感覚を疑ったりするきっかけになる芝居はいいものだと思います。

 

そんでね、これ開幕が東京・北千住のシアター1010で、地方公演を回ったのちにまた東京・日比谷のシアタークリエで上演という、ちょっと変わったスケジュールだったのね。

私は2021年末のシアター1010と、1月に福岡・博多座で観たあと、2月のシアタークリエの上演を待ってたんですが・・・

クリエで開幕した時には、前に観たのと全然印象が違うシーンがそっちこっちにあって、ちょっと驚いた。

お初の博多座。素敵な劇場でした~

特にヴァージニアの人物造形が後半に行くほど変わってて、売れない女優がチャンスを掴もうとして失敗した、とは見えなくなってたのです。

そこが違って見えると、その後の印象がまったく違う。

最初のうちは実力があまりないのに野心的で、枕営業どんと来いな女の子に見えてた。

アーバックルがパーティを開くホテルでフィッシュバック(亀島一徳さん・劇中のイヤな人物を一手に引き受けお疲れ様でした!)と会う時も、最初から媚びるような感じだったのに途中から違ってて。

出てくる人ほぼみんな、映画が好きで映画作りを愛してる中、ヴァージニアはただVIPになりたいだけの女の子に見えてたのが、真摯にキャリアを獲得するチャンスを模索している人に見えるようになった。

演じてる黒沢ともよさんのプランが途中で変わったのか、演出が変わったのかはわからないですが、千穐楽近くなるほどしっくりきました。

加えて、ラジオでレアマン(篠崎大吾さん・この役以外はなぜか全部女性役でしたw)が

「ヴァージニアは道徳的だった」

と言ってるのを聞いたキャリー(望月綾乃さん・複数の役がぜんぶ違って見えた、すごかった)が

「どこが。いろんな人がヴァージニアに病気(たぶん性病)をうつされた」

って言うとこも、最初のうちは「ああそうなんだ、だらしない女だったんだな」と思ったけど、のちのち印象が変わったし。

噂は噂で、だれが本当のことを言ってるのかわからない。ヴァージニアが売れない女優だから、言い訳に使われた可能性だってあるわけで。

方法はどうであれ、彼女は仕事をしたかったし、必死に生きてたんだなぁと上演期間の後半に行くほど強く感じたんですよ。

それは、ラジオで出番を終えて去ろうとするレアマンが一瞬、ヴァージニアの気配を感じたところにも現れてると思った。

ヴァージニアの気配を察したらしいのは、レアマンだけなのよね。彼の中に、単に遊んだだけではない存在としてあったからこそ、彼だけがその気配を感じたのではないか。

 

そういえばさ、さまよってる死後のヴァージニアは、いろんな人に話しかけたり近づいたりするんだけど、アーバックルにはまったく何もアクションしないのよね。

監獄にいる看守には近寄るのに、まるでアーバックルのことが見えないみたいに。あれはどういうことなのかな・・・ってずっと考えてる。

2幕最初はあちこちの人に話しかけたり、くってかかるようなそぶりを見せてるヴァージニアが、だんだん誰にも話しかけなくなるのがつらい。

ルイーズ(島田桃子さん・透明感のある不思議な女優さんだ~!)とドロシー(森本華さん・今回いちばん心惹かれた女優さんでした!うまい!!)が話してるところにやってきて、ルイーズにシンクロして石を投げる時には、もうまったく話さない。

一番、考えてることを話したら通じそうなコミュニティでも、階層が違うと伝える手段がない、って暗喩のようで切なかったわ。

 

サイレントコメディって、考えたらチャップリンのしか観たことないんですよ私。

そんで今回、劇中に流れる映画を眺めつつ思ったんだけど、私はどうも「危ない」と感じると笑えないらしいw

ヒヤヒヤする気持ちのほうが大きくて、笑いが引っ込んじゃうんだな~と。

そのことからもちょっと思ったんですけどね、死ぬほどの危険がある裏側を知りつつ、それでも何十年もサイレントコメディを偏愛してるビリーってちょっと怖くない?w

映画が好きとは言ってるけど、トーキー映画が主流になったら映写技師もやめてしまってるわけで。

みんなが命がけで映画を作ってた、その情熱を愛してた、といえばそうなんだけどさ~。

面白いんだけど、なんか底に怖さがずっとゆらゆらしてる気がする・・・ってKERAさんの作品多いよね、そういうの。だからこそ好きなのかも知れん。

悪ノリっぽい下品なとこも少なからずあり、ほかの劇作家さんだとすごい拒絶感あるのにKERAさんだと許せるフシギw

そういえば一番さいしょの撮影中のとこ、セネットさんが何でも食べちゃうマリーさんに演技をつけてて

「吐きながら掃く」

のをマリーさんは

「吐きながら履く」

ってやってたのが可笑しかったw

どうやって履くんだよ(考えたくないw

 

演出の三浦さんは初めましてでした。というか失礼ながら、劇団ロロも今回初めて知りました。

ロロの役者さんも多く出演されてて、皆さん巧いのでびっくり。特に森本華さんがも~気になって気になって!

演じ分けがすごいんですよ・・・ブロマイド屋のおばちゃん大好き!ポップコーン本当に食べてるとしか思えなかったわ!

次回作公演のチケットを取ったわたくしですw

SLAPSTICKSの場面転換もマッピングも素敵で、センスいいなぁと思いながら見てた。ピアノがテーブルになったり、上部が外れて本棚になったりするのも楽しかったわん。

そうそう、お友達に教えてもらった、「SLAPSTICKS」を初演から見てきた方の考察がとても素敵だったのですよ。

「ロマンティックコメディ」に違和感を感じるところまで意図していたとしたら、三浦さん恐ろしいとも思いました。

木村達成さんはジャック・ザ・リッパーで「おおっ」っと思ったところでしたが、今回も本当にすごく良くて。どこにも力みを感じない自然なそぶり。演技とは思えない。

初恋にはしゃいでる姿も、大人になりかけで苦悩する姿も「等身大」ってことばがピッタリはまる。

キャリーの死を知って苦悩するところは苦しかったなぁ。

役者が危険な撮影に命がけで挑んでいるのは知ってたけど、ビリーにとってそれは「面白いものを作るためのリスク」としかとらえてなかったんじゃないのかな。

ベッドごと窓から落ちたり川に流されたりしてたキャリーが、映画から離れたら死を選ぶほどに「映画を作ることに命がけだった」とは思わなかったのでは。

そのことに気づいて苦しんでるように見えたんですよ。あの悪夢のようなシーンは。

遼生さんとの親子じゃれあいは猛烈に楽しかったですw

四月は君の嘘も見に行くので楽しみよん。

 

桜井玲香さんは初めましてかな。ウエスト・サイド・ストーリーを観るはずだったんですけどね・・・(悲)

綺麗なのは当然として、声のトーンが好きだったなぁ。

1幕のアリスは本当につかみどころがないフシギちゃんで、あれは演じるのがなかなか難しいだろうと思うんですけど(我儘に見えちゃいけないだろうし)エキセントリックかつ芯の強さを感じられてよかったです。

2幕の大人になったアリスは切なかったけど、ビリーとのことはずっと大事に思ってたんだなって感じた。

 

私はお笑いを見ないので、金田さんは映画の「私の優しくない先輩」で観たきりだったんですよ。やかましい役だったし、芸人さんってことで前に前に出てくる感じかな~と思ってたら。

出しゃばらず、しかし存在感があってイイ!そしてとにかく間がいい!!

間 を置いてから発するひと言目が抜群にいい!!

また舞台で見たーい。

品の良い、ものの道理がわかってる成功者という造形で好きでした。

金田さんのアーバックルは、よくないこともしてるだろうけど(クスリとかさ)、人を平気で踏みつけにはしないだろうなって感じでした。

元木聖也さんも初めましてだったなぁ。身体能力のすごさと声のハリw

立ち寄ろうとしたお店に昔の上司がいて・・・ってところ、表情の変化がすごくよかった。繊細な役も見てみたい。

壮さんは大女優の風格もあるし、気の強さもおちゃめさもあって素敵でした。そしてとにかく綺麗。眼福。

マギーさん演じるセネットさんとのロマンスシーン(だよね)大好きだった~

 

さぁそして私の愛する小西遼生さん・・・主な役は中年期のビリーだったんですが、ビリーのパパ役も兼ねてましてね。これがたいそうツボでしてw

ピーター・パンのダーリング氏に続き、「ダメ寄りのパパ」という当たり役を得た、とファンとして大変喜んでおります(え)

息子が木村達成という説得力w顔面偏差は優性遺伝だったのですね(違)

ストーリーテラー的役割は今までもけっこうあったと思うんだけど、今回の中年期ビリーはちょっと違うのね。

お話が進んでいく中でいったん、こちらの感情をフラットに戻すというか。ビリーとデニーが出てくると、「そうだこれ、思い出話を聞いてるんだった」ってなる。

ふたりの会話はほとんどコントなのよねw椅子がひとつしかないラーメン屋での会話なんて、ふたり並んで客席に向かってるんで漫才かと思うw

こういう役どころは初めてじゃないのかな。通常生活ではちょっとネジが緩んでるオタク。

美形なことが条件の役もまだまだやってほしいけど(グレートコメットのアナトールとかさ)、こういう役もイイ!

悪気なく人を振り回す役をもっと観たいわ~

文房具屋にとりあえず入ってみましょうよ!ってとこ、すごく好きだった!表情といい半回転するしぐさといい、かわいくてウザいw

巨大三角定規を抱える姿もかわいかったよ~!

 

収録DVDが、2月末まで劇場来場者限定で予約を受け付けてたんですよ。

たぶん、後ほど一般発売もされるんでしょうけど・・・

あのかわいい姿がまた観られる、と楽しみにしてるんですけどね。

私、申し込んだはずと思って控えを探したんですが、見つからない!

もしや申し込み忘れたのか??と今おびえております・・・

秋ごろ発送予定となってたので、かなり先ですが震えて到着を待ちたいと思います。

届きますように・・・!

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