東京芸術劇場プレイハウスで2021年7月11日まで上演予定の
NODA・MAP「フェイクスピア」を観てきました。
これ、何をどう言ってもネタバレになるので伏せずに書きます。
これから観る予定のある人は読まずに閉じてくださいまし。
良かったら観劇後にまた来てね!
あ、パンフレットは野田秀樹さんと南直哉氏(恐山菩提寺院代)の対談だけでも1200円の価値があると思いますのでぜひ~
現代の言葉の軽みを風刺・いさめる物語・・・かと思いきや
フェイクスピア、と聞けばフェイクとシェイクスピアを合わせた造語、と誰でも思いつく(と思う)。
シェイクスピアといえば洗練された言葉の洪水で観客を酔わせる劇作家。
それにフェイクをつけてるんだから、いまSNSや報道で無責任無思慮に使われる「ことば」に対しての風刺のお話かなー
というのも、誰でも思いつく(だろうと思う)。
その意味もなくはないけど、まっったく予想しなかった場所へ連れて行かれて驚愕しました・・・。
個人的には「逆鱗」以来のショック。ラスト20分くらいはもう、苦しくてたまりませんでした。
開演すると舞台中央に佇む人たち。
一団の、やや下手よりに立つ高橋一生さんがゆっくり振り向く・・・と、佇む人たちが動きを合わせてずしんと倒れる。
もう、この時からラストの展開が暗示されていた、と分かったときの衝撃ね。
「誰にも聞こえない音、それは音だろうか。誰にも聞こえない言葉、それは言葉だろうか」
詩的で謎めいた台詞と動きで始まった、と思ったら白石加代子さんがトコトコ登場して
「白石加代子です、女優をやっております」
爆笑した(笑)
百物語のパロディかと思うわw
加代子さんが「女優になる前はイタコの修行をしてました」とか言うと本当かと思っちゃうよねw
もちろん劇中の台詞でしかないですよ~。
イタコの修行中の皆来(みならい)イタコが加代子さんの役名。
8月12日、やけに細かい時間を指定された予約の時間から物語が始まりました。
開幕の動きといい、この予約の時間といい、その後出てくる前田敦子さん演じる「伝説のイタコ」が言う「飛行機のエンジンを止めて」って台詞も、すべてがラストの展開へ向かっていく布石。
全部が分かってからもう一度観たい、とも思うし、二回目はしんどくて観られないかも、とも思います。
若くして亡くなったmono(もの・高橋一生さん)は楽(たの・橋爪功さん)の父親。
生者と死者が混在する恐山で、イタコが様々なものを呼び出す。
言葉の神様シェイクスピア。シェイクスピアの書いた四大悲劇の主人公とヒロイン。
神から火を盗み人に与えてしまったプロメテウスのように、言葉を盗んだ男がもつ箱には何が納められているのか。
その箱はCVR(コックピットヴォイスレコーダー)だった。
1985年の夏に起きた日本航空123便の墜落事故。
その墜落直前のコックピットの様子を録音したものが、事故から10年以上経ってからマスコミに流出し、各TV局で放送されたということがありました。
その頃わたしは長時間働いておりまして(午前8時から午前3時までとか普通だった。身体壊したw)、TVをほぼ見てなかったんですが、スタッフの間でも話題になってたのは覚えてます。
当時、繰り返し流されていた乗員同士の会話や管制交信を聞いていた人には、かなり序盤のセリフや、イタコが受けた予約時間などからピンとくるように出来ていたようですね。
なぜその題材と言葉の神様シェイクスピアを掛けたのか。
そこは野田秀樹さんの頭の中をのぞいてみないと分かりません。
のぞいても理解できるのか自信もないが。
シェイクスピアは洗練された言葉を操り、美しい物語を紡ぎ出した。いわばフィクションの頂。
でも本当に強い、強すぎる現実の言葉は、洗練された様式美とはかけ離れたもの。
と同時に、現代の言葉や、発言に付随する責任を考えない浮薄さから見れば対極のもの。
単純にフィクションはノンフィクションに叶わない、という話ではないと思うんだけど、どうしたって手を入れるべきでない言葉の一群ってあるんだなと。
野田さんが東京芸術劇場のHPに寄せたメッセージにも、そんな含みがあるように感じます
うなり声が出そうなくらい巧かった役者陣
高橋一生さんと橋爪功さん、白石加代子さんのやり取りが!
めちゃくちゃ巧すぎてたまらん!!w
皆さん憑依されたり抜けて素に戻ったり(一生さんだけは素が不明なまま進むんだけど)、それが瞬時に変わるのがすごい。
個人的に大・大・大好きな加代子さんの憑依っぷりが堪能できて嬉しゅうございました(喜)
橋爪さんはリア王、オセロー、マクベス、ハムレットになったかと思うと小さい子どもになったりする。
子どもの時が本ッッ当に子どもなのがスゴすぎてうなりそうになるわw
失礼ながら年配の方が子どもの演技をするとね、どうかすると認知症が進んだひとみたいになっちゃうじゃないですか。
それがそうならないのねー、あれは何が違うんだろ。
謎めいた台詞がいちばん多いのが一生さん。
終わってみれば分かるんだけど、序盤は本当になんの話をしてるのかサッパリわからない。
それだけに四大悲劇のヒロインになりきるところは、筋が見えて安心できたりするのが可笑しい(笑)
一生さんはNODA・MAP初参加なんですね。
硬質な声の感じとか、不思議な佇まいとかピッタリすぎて「あれ?初なの??」ってなりましたw
一生さん、発声、立ち姿、表情とすべてが素晴らしくて震えた。
シェイクスピアのヒロインになりきるところは、女性にしか見えなくてホントすごいよ!
失神するときも女性として倒れるのですごいキレイw
ハムレットだけは前王の亡霊だったけど。
台詞がセルフエコー。それがものすごく巧くてかなり笑いました(笑)
明瞭な台詞もしなやかな動きも素晴らしかった。あと色気すごい(知ってた)。
終盤のヒリヒリ加減はもう・・・手に汗握るどころじゃなかったです。凄かった!
伊原剛志さんは大倉さんの代打だったんですね。
大倉さんが降板されたのをすっかり忘れてて、パンフレットを読んで「あ、そういえば」ってなりました。
舞台で拝見したのは初めてかも。慈英さんとの凸凹コンビ感よかったです。
硬派な日本男児な印象も(そういう役じゃ無いんだけど)うまい具合にポップな慈英さんと対比が活きてて面白かった。
川平慈英さんはどこまでも川平慈英さんでした(悪口にあらず)。
iPadみたいなのをパンパンッてやりながら営業トークするとこ、めっちゃ笑ってしまった(笑)
前田敦子さんは太陽2068以来かな。声質が舞台向きではないような・・・って思ってたけど、今回はそれほど感じなかった。
というか「伝説のイタコ」はガナるのが多いんで、あれを言ってることがわかるように演るのは、なかなか大変だよねと思いつつ観てました。
星の王子さまは、フレアーのパンツの裾がヒュッてなびいた形になってて可愛かったよ♪
私が大好きな村岡希美さんも大活躍でした。声も動きも、表情も好き~
オタコ姐さん、エエ人やw
野田秀樹さんは例によってエキセントリックな役柄でした。もはやお約束(笑)
シェイクスピアの登場シーンは大爆笑してしまいましたw
いつも思うけど、野田さんの台詞って語彙が豊かじゃないと聞き取れないよね~。
ボイスレコーダーの強烈な言葉群について、言えることはなにもありません。
ただただ、生きたかったよねと思うだけです。
「演劇」という虚構に、この究極のノンフィクションを入れ込むことに拒絶を感じる人もいるかもしれない。
私にとっては、改めて起きたことについて知ろうとするきっかけになりました。起きたことを忘れない、もう起こさないためにどうするのかを考える。
喉元すぎるとすぐ忘れちゃうからね。
なんとなく思ってる「明日もふつうに生きてるだろう」って感覚についても、ちょっと考えちゃいますよね、こういう芝居を観ると。
去年からずっと続いてる感染症のこともあってさ。
悲観的になる必要はないけど、「そういうことはあるものだ」ってことは、たまに取り出して眺めておかないといけないのかなって思ったりします。
フェイクスピアは万人向けとは言い難いですが、まあ野田さんの芝居はいつもだいたいそうだし(笑)
私はとても好きで、観に行って良かったと思う芝居でした!
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