古典的名作、「屋根の上のヴァイオリン弾き」を観てきました。
この作品、ずっと昔に映画で観た。ような気がする。
ってくらい、内容について記憶がなかったw
それもそのはず、なんとこの作品、私と同い年なんですよ(ブロードウエイ初演が1964年)。
古典。古典だわ!!
私が観た映画版は、1971年製作だそうですから、きっと小学生か中学生の頃にどこかで観たんでしょね。
あまり印象に残っていないのは、他にもっと刺激的な作品が多くあったからなんでしょうけど、今この歳になって観ると、しみじみと名作だなぁと感じます!
そして知ってる曲が多かった。
「あっこれ、この作品の曲だったんだ!」ってなりましたよん。
- もし金持ちなら
- 陽は昇り 陽は沈む
- 愛する我が家を離れて
これらは知ってる人が多いと思う!
あらすじ
1900年代のはじめ、帝政ロシア時代。
アナテフカという村で牛乳屋を営むお人好しのテヴィエ(市村正親さん)は、働き者だが生活は苦しい。
妻のゴールデ(鳳蘭さん)には頭があがらないが、娘ばかり5人の子どもたちと共に、穏やかな日々を送っていた。
長女ツァイテル(凰稀かなめさん)・次女ホーデル(唯月ふうかさん)・三女チャヴァ(屋比久知奈さん)はそろそろ適齢期。
ユダヤの厳格な”しきたり”に従って上から順に、そして両親の祝福がなければ結婚は許されないため、彼女たちは気もそぞろだ。
そんな時、仲人婆のイエンテ(荒井洸子さん)がツァイテルに縁談をもってくる。
金持ちな肉屋のラザール(ブラザートムさん)がツァイテルを後妻に欲しいというのだ。
お金持ちなら生活に苦労はしないと、母であるゴールデは大喜び。テヴィエもラザールにツァイテルを嫁がせると約束する。
しかしツァイテルには仕立屋のモーテル(上口耕平さん)という恋人がいた。
どうしても一緒になりたいと訴えるふたりの姿にうたれ、テヴィエはツァイテルとモーテルの結婚を承諾する。
二重に結婚の赦しを出してしまって困ったテヴィエだが、なんとか決着をつけ結婚式をあげる。しかし式の最中に警官隊が入り込んできてめちゃくちゃにしてしまう。
帝政ロシアでは、ユダヤ人への弾圧が始まっていたのだった。
次女ホーデルは革命を夢見る学生パーチック(植原卓也さん)と恋に落ちシベリアへ。
三女チャヴァはロシア人の青年(神田恭兵さん)と駆け落ちしてしまう。
そして政情は悪化の一途をたどり、ついにユダヤ人は強制退去させられることになってしまった。村人たちは荷車に家財道具を積み込み、静かに村を去って行く。
ずっと物語を見守っていたヴァイオリン弾きは、彼らの後を追うように消えていった。
原作はショレム・アレイヘムという方の「牛乳屋テヴィエ」という短編の連作なんだそうですね。
そこにはヴァイオリン弾きは出てなくて、舞台版独自の表現なんだとか。
さて屋根の上でヴァイオリン、と聞けば思い出すのはシャガール。
シャガールの「ヴァイオリン弾き」は、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」ブロードウェイ初演の際、宣伝に使われてとても有名になったのですって。
そりゃ連想するわけですわw
使われたのはこの絵ですって
↓
シャガールは屋根の上で人がヴァイオリンを弾いている、というモチーフで何度も絵を描いているんですが、最も初期の絵とされているのがこれなんだそうです。
シャガールも、牛乳屋テヴィエの原作者も、このミュージカルの主人公テヴィエもロシア系ユダヤ人で、故郷を追われた共通項があるそうな。
中野京子さんの「新 怖い絵」に詳しく書かれています。
この絵の「怖さ」についても詳しく、わかりやすく書かれているのでぜひ。電子版もあるわよん
テヴィエは正直な働き者で、意地悪でも偏屈でもない。
暮らしは貧しいし、子どもは女ばかりで力仕事は頼りにできず、馬の脚がやられたら重い荷車を自分で引くしかないけど、なんとか頑張って生きている。
不平不満はあるけどまっとうで、愚痴も神様に対してしか言わないのがイイ(笑)
「ちょっとばかり幸運をくれたっていいんじゃないですかね」
「あたしが金持ちになって、神様が困ることなんてないでしょうに」
てな具合でw
テヴィエが善良であるだけに、アナテフカの人々の受難に心が痛みます。
素朴な信仰と受け継がれてきた”しきたり”によって秩序ある暮らしをしているユダヤ人を、ただユダヤだというだけで排斥する。
欲張らずに生きている人にふりかかる災難の理由はなに?ってことを考えさせられる。
これって終わった話じゃなく、いたるところで形を変えて続いてることなんですよね。
迫害は神様が決めたことでも自然災害でもない。人が人に害を与えてるだけなんだから、やめることができるはず。
鳳蘭さんのゴールデはホント「肝っ玉かあさん」w
テヴィエをどっしり尻に敷いて、娘達にもキビキビと指示を出し、もちろん自身も働きもの。
結婚式までお互いの顔も知らなかったテヴィエとゴールデが、娘たちの恋と成長を目にしてお互いの愛を確認する「愛しているかい」は、聞くだけでもう涙。
男女としてというより、人同士として愛し合う夫婦の姿に胸を打たれます。
しきたりによって結婚した両親とは違い、それぞれが自分で人生の伴侶を見つける娘たち。
凰稀かなめさんのツァイテルは、ゴールデっぽいおっかさんになるんだろうなって予想させるきっぷの良さ(笑)
好き合ってるのに一向に結婚の許しをもらってくれない恋人にハッパかけるとこなんて笑ってしまう。そして結婚式の美しさね。
革命に身を投じるパーチックと恋に落ちるホーデルは唯月ふうかちゃん。ふうかちゃんここんとこ本当に大活躍で嬉しい(喜)
賢くて気の強い女の子はハマりますね。歌声もますます素晴らしかった!
広大な土地にぽつんとある駅で、テヴィエと(おそらく永遠の)お別れをするシーン、泣けてたまりませんでした。
三女のチャヴァは屋比久知奈ちゃんなのになんと!ソロで歌わないのよ!!
ミュージカル「NINE」でエリアンナさんがいるのに歌わないことに匹敵する衝撃(根に持ってる
お芝居良かったですけど、やっぱ歌声聞きたかったなーと思っちゃいましたよん。
パーチック役の植原卓也さんも、どんどん巧くなってますよね。歌も芝居も。大きな舞台が似合う方なので、今後も期待したい。
あと上口耕平さん!気の弱い仕立屋のモーテルすっごい巧かった(笑)
上口さんコメディタッチうまいんで楽しい!ヘアスプレーも楽しみにしてたんだけどな~(※コロナで中止になったのよ
ただ正直に働いて生きて、次の世代を残こす。そうやって生きている人々を追い立て、追い詰める───
これが全くの創作なら、理不尽すぎてわけがわからん!となるとこですが、現実にもあったことなのが恐ろしい。
その時、その場ではもっともらしい理由がついてるんでしょうけど、どれだけバカげたことなのかは今になればわかること。
でもこれからだって、絶対にないとは限らないよね。日本においても。
出自や血筋など、自分の責任じゃどうにもできないことで迫害を受けたら、自分だったらどうするだろう。
いや、本当に考えなきゃならないのは、「自分はされる側じゃなかった」時にどうするかよね。
自分に害が及ばなければもっけの幸いとする?そうやって迫害や差別って続いてきたんだよね?
でもきっと、それが始まって大きなうねりになってしまったら、自分ひとりでできることなんて何もない。
だからこそ社会全体で、「それが起きないように見張り、小さなことも見逃さず差別の芽を摘んでいくこと」が必要なんだなぁ、としみじみ。
繰り返し上演されているのも納得だわと思った帰り道でした。
またぜひ、観に行きたいです。息子にも観て欲しい!
コメント