成河さん・章平さん・千葉哲也さん出演、千葉さん演出の舞台「BLUE/ORANGE」を観てきました。
いやもう、なんだろうあれ。面白かった。しかしなんとも言えずモヤモヤした(笑)
劇場はDDD青山クロスシアター
対面式の客席に、横に伸びた舞台は真っ白。で、三軒茶屋のシアタートラムで観た「スポケーンの左手」を思い出しました。
真っ白な壁に真っ白な床、真っ白な長いテーブルの真ん中には、ガラスボールに入ったオレンジ。
色は白とオレンジ、そして透明感のあるブルーだけのセットは、清潔・冷淡・無機質といった印象。
客席は対面式ですり鉢状なので、ここで起こる出来事を俯瞰している感じになるんですけど、観ていて受ける印象は
「発言権のない会議に参加しているみたい」
でした。
あらすじはこんな感じ
場所はロンドンにある精神病院。勤め先のマーケットでの、ある「行為」により警察により強制入院させられたアフリカ系青年のクリストファー(章平さん)と、研修医ブルース(成河さん)が向かい合っている。
クリストファーは境界性人格障害と診断されていたが、ブルースは彼を統合失調症ではないかと疑っている。
もし、統合失調症であればもっと深刻な問題を起こし、クリストファーの人生は破綻するかもしれないと心配するブルースは、明日退院の予定を延期し治療を続けさせて欲しいと上司の医師ロバート(千葉哲也さん)に願い出る。
しかし現実主義のロバートは、「やるべきことはやったし、ベッドの余裕もない」と言い治療の継続を認めようとしない。
しつこく食い下がるブルースに、指示に従わないと医師としての出世に響くと匂わせ、予定通りクリストファーを退院させようとするロバート。
ふたりの議論は平行線のまま続き、業を煮やしたロバートは、クリストファーを適当に診察し、この一件を落着させようとする。
ブルースは諦めず、横から質問を続ける。ブルースがテーブル上のオレンジをクリストファーに渡し、その色を尋ねると、クリストファーは当然のように「ブルー」と答えた─────
めちゃめちゃ良かった~楽しめました
長ーいテーブルを挟んで、時に密着し、離れ、詰め寄り、突き放す役者さんたちの身体性の高さったらあなた!
そう、舞台ではこういうのを観たいのよ!って思うわね。
千葉さんがところどころもんどり打ってて、ちょっと心配になったけど(笑)
千葉さんの台詞回しも動きも自然すぎて、とても演技とは思えず。昔勤めていた会社にいた上司を思い出したわ。
成河くんもやっぱり上手い。上手いっていうかもう、凄い。
初っぱなのクリストファーに対する話し方と態度だけで、ブルースの知性と経験の浅さが見えるし、中産階級以上の暮らしをしているであろうことも、理解できないゲスなものに対する嫌悪と苛立ちも感じる。
感情を抑えているストレスも、弱い電波のように伝わってくるし。
ずーーーーっと激昂しないように抑えて、抑えてからの爆発は、ヒステリックな役の成河くんを見慣れてても怖かった(゚∀゚)
章平さんは3回目かな?私が観るお芝居は。存在感のある役者さんですよね。まだ20代なのねぇ。
「やばいっしょ」
の言い方がすっごくツボ。色んなニュアンスで言う。語彙力はないのに表現力はある若者そのもので、すっごくしっくりきた。
みんなズレてるし、みんな普通
3人の間で、めまぐるしく変化していく優劣や信頼関係、理想との折り合いを眺めていると、3人ともまともに見える。
精神科医・研修医・患者と立場はかなり違うはずだし、クリストファーは時々完全に狂ってる・・・と感じる言動をするのにも関わらず。
というか、クリストファーも分かりやすく異常な行動はするけど、言動についてはコミュ障なだけ、と受け取れないこともない。
あのくらいヘンなこと言う人ってフツーにそのへんにいるし。
自分の親に関する話だって、さも本当のように説得力のある大嘘をつくひとって、ビックリするほどいません?現実に。
狂ってるわけじゃなくても、あのくらいの虚言症はいるよな、ってお芝居を観ながら思ってたわ。
狂気は異世界にあるのではなく、自分の内にあるという感覚になってきて、それがちょっと怖くもあった。
最初はブルースの言ってることが一番正しく聞こえるの。
クリストファーは確かにヘンで、自分がヘンだという認識もなさそう。
でもロバートの言い分を聞いていると、「たしかにそうだな」とも思えてくる。
クリストファーはヘンなこと言うし、態度も良いとは言えないけど、自傷行為もしてなければ、ひとに危害も加えてこない。
たった一度、テーブルにオレンジを吐き出すけどそれだって人に向けてじゃないし、現実的に脅威ではないのよね、なんとなく気持ち悪いだけで。
それなのに、本人も望んでいない長期にわたる治療を強いるのは、傲慢で差別的な考えではないか?
というのが、だんだん納得できてくるというか。
とはいえ、ロバートもかなり自分に都合良く話をもっていくので、全面的に賛成はしかねる・・・みたいな気持ちになって、ああ思い出してもモヤモヤするわ(笑)
最初は規範的、模範的に思えたブルースに、「正しさをかざした傲慢」を感じてからの印象の変化ね。
そういやこの人、最初からクリストファーに対して、「わかりやすい困りごとを起こす狂った黒人」として接してなかったか?
妙な馴れ馴れしさも、子ども扱いみたいな話し方も、思い起こすとちょっと気分が良くない。
と、観客に思わせるしかけになってるのだとしたら、ものすごい構成だわ!
クリストファーの言うことは支離滅裂で、何ひとつ信じられそうにない。実際、ブルースもロバートもあまり話を真に受けてない。
なのに、オレンジがブルーに見える、という異常については疑わない、という点にもモヤモヤするのよ。
異常性は信じるというか、「さもありなん」みたいな。
分かりやすく狂っていると感じられる点は、自分にとって都合がいいから納得しちゃう。
結局クリストファーは退院し、本音を吐き出しすぎた研修医は、医師とのパワーゲームに負けるのか、と思いきや・・・
というハッキリしないラストも相まって、終わった後アタマ抱えて考えたくなるお芝居でした。
いや面白かった。
そういえば、ラスト近く、水を出していないのにゴボゴボッと空気が上がったウォーターサーバーは、何を暗喩してたのかしら。
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